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横浜地方裁判所 昭和41年(ワ)406号 判決

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、双方の申立

一、原告

「被告らは原告に対し、別紙目録記載の土地部分五三・四五平方米を明け渡し、かつ昭和三五年九月一日から右明渡しずみまで一カ月金一、一二八円の割合による金員を支払うべし。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決と仮執行の宣言を求める。

二、被告ら

主文と同旨の判決を求める。

第二、請求の原因

(一)  原告は別紙目録記載の土地一二八坪(四二三・一四平方米)を昭和三五年九月一日訴外池田国吉から買い受けて所有権を取得し、同日所有権取得登記を経た。

(二)  被告らは右土地のうち別紙目録記載の部分一六坪一合七勺(五三・四五平方米、以下本件土地という)を、共に占有している。

(三)  よつて被告らに対し、所有権に基いて、本件土地部分を明け渡し、かつ昭和三五年九月一日から右明渡しずみまで一カ月金一、一二八円の相当賃料額による損害金の支払いを求める。

第三、被告らの答弁

(一)  原告主張の(一)の事実は認める。同(二)の事実中、被告大場、同宮川が本件土地部分を占有していることは認めるが、その余の事実は否認する。

(二)  本件土地部分を現実に占有しているのは被告大場、同宮川のみであつて、被告浅野は被告大場、同宮川に対する貸金債権についての譲渡担保として、本件土地部分およびこれに隣接する横浜市鶴見区鶴見町字北台二、三四五番地六〇坪七合五勺(二〇〇・八二平方米、以下隣接土地という)の上にある被告大場、同宮川所有の木造瓦葺二階建家屋建坪三一坪二合五勺(一〇三・三〇平方米)、二階八坪(二六・四四平方米)の家屋(以下本件家屋という)の所有名義の移転を受けたにすぎない。すなわち、被告浅野は昭和三五年八月一九日被告大場、同宮川両名に金一一五万〇、二三七円を、弁済期の定めなく、利息を年六分以上と定めて貸与し、この貸金債権担保のため、昭和三七年一二月一五日になつて、同日付売買を原因として被告浅野名義に所有権移転登記を受けたのであり、真実の所有権はなお被告大場、同宮川にあつて、右両被告が本件土地を本件建物敷地として占有していることになる。

(三)  本件土地はもと池田国吉の先代池田増蔵の所有であり、隣接土地は池田剛の所有であつて、終戦前から秋山喜八が池田増蔵および池田剛から本件土地および隣接土地を建物所有の目的で賃借して、本件建物敷地として一体として使用して来たものであり、昭和二〇年一一月一六日秋山喜八が被告大場、同宮川の先代宮川嘉市に本件家屋を売渡したが、その際本件土地および隣接土地の賃借権もあわせて譲渡したものであつた。そして昭和三〇年一〇月三日宮川嘉市の死亡により宮川ツタ、山本律の両名が相続によつて本件建物所有権を取得し、次いで昭和三五年一一月一六日贈与により宮川ツタが山本律の持分を取得し、さらに同年一二月三〇日宮川ツタの死亡によつて被告大場、同宮川両名が相続により本件建物所有権を取得したが、これら各承継にともない、本件土地および隣接土地の賃借権もそれぞれ承継されて移転したものである。右のとおり、被告大場、同宮川は本件土地について、隣接土地と併せて建物所有を目的とする賃借権をもつており、その地上に登記した本件建物をもつているから、建物保護法一条により、本件土地所有権を取得した原告に対抗することができるわけである。

(四)  仮りに、本件土地が本件建物の敷地ではなく、庭にすぎないとして、建物保護法の適用がないとされるときは、被告大場、同宮川のもつている本件土地賃借権は原告に対抗できないことになるが、然るときは、原告の請求は権利の濫用であると主張する。すなわち、原告は昭和三五年九月一日本件土地を含む別紙目録記載の宅地一二八坪を買い受けたのであるが、そのうち本件土地は隣接土地と地形上一体をなして外見上区別がつかないのに反し、右一二八坪の土地のその余の部分は高低差があつて使用状況の異ることが一見して明らかであるから、原告は本件土地を買い受けるに当りその現状を十分に調査したうえで買い受けたはずである。そして原告は右買受け以来本件土地の隣地に居住して来たのであるから、本件土地の使用状況を認容していたものというべく、今に至つてこれをくつがえし、被告大場、同宮川の賃借権を否定することは信義則に反するとともに、権利の濫用に当るといわなければならない。

第四、抗弁に対する原告の反駁

(一)  被告ら主張の(三)の事実のうち、本件土地がもと池田国吉の先代池田増蔵の所有であつて、隣接土地が池田剛の所有であること、秋山喜八が隣接土地を終戦前から建物所有の目的で賃借して、その上に本件家屋を所有して来たこと、秋山が被告ら主張の日に本件家屋を宮川嘉市に売渡し、その後本件家屋が被告ら主張のとおりに承継取得されたことは認めるが、その余の事実は否認する。

本件土地は、従前から本件建物の庭として使用されて来たにすぎず、従つてこれについて建物保護法の適用はないのであるから、仮りに本件土地について、池田国吉と宮川嘉市との間に賃貸借契約があつたとしても、被告らが承継取得した賃借権をもつて原告に対抗することはできない。

(二)  信義則違反ないし権利らん用の抗弁事実は否認する。

第五、証拠関係(省略)

目録

横浜市鶴見区鶴見町字北台二三四七番

一、宅地一二八坪(四二三・一四〇平方米)

のうち、同地が同所字北台二三四五番の宅地と公道とが接する点を(イ)点とし、同(イ)点より右公道に接する境界線を南方に向い三・六五四米(二・〇一間)進んだ地点を(ロ)点、同(イ)点より右二三四五番との境界線を東方に向い一四・七六米(八・一二間)進んだ地点を(ニ)点とし、(ニ)点より右(イ)(ロ)の各点を結んだ線に平行に三・五九九米(一・九八間)進んだ地点を(ハ)点とし、右各(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(イ)の各点を順次直線にて囲んだ部分五三・四五平方米(一六坪一合七勺)

(別紙)

〈省略〉

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